この原稿を書いている時点では、本書はキンドルアンリミテッドが設定されていて、登録会員なら無料で読めます。読書量の多い人には、月額980円のサブスクであるキンドルアンリミテッドはお得だと思います。月に1冊読めば元が取れるのですから。
さて、本書ですが、タイトルを見て「効率的なノート取りの技法解説書かな」と思った人はハズレです。本書は、ペン1本、ノート1冊で自分と対話し、自分の脳の中身を書き出すことで、脳の活性化をはかり、自分を変えてしまおうとする本です。
最初は30分だけ、知り合いのいないカフェにノートとペンだけを持って行きます。スマホやノートパソコンは家に置いていきます。そしてノートのページを開いたら、まずは何かテーマを決め、それに沿って頭に浮かぶことをひたすら書きまくります。
このとき、「きれいに書こう」と思ってはいけません。また、このノートは絶対に人には見せないと決めておかなければなりません。なぜなら、きれいに書こう、人が読めるように書こうと考えるだけで、集中が疎外され、自由な思考が妨げられるからです。
では、そんな方法でノートに頭の中にあることを書き出すと、どんなことが起こるのでしょうか。それは著者みずからの経歴が証明しています。
著者は北海道大学経済学部を卒業した後、日本生命に入社、15年ほどを過ごしました。その最中にノートの力で起業し、コミュニティ・プラットフォーム「信用の器 フラスコ」の代表のほか、オンラインサロン「フラスコノート・ラボ」など多数のコミュニティを立ち上げ、運営に関与するようになりました。
誰もがうらやむ大手企業に就職しながらも、著者は次のようなことに悩んでいたそうです。
・とにかく忙しく、じっくり考える時間がない
・頭の中がごちゃごちゃしている
・何がやりたいか、自分でわからない
・企画が苦手で、アイデアが出せない
・もっと仕事の効率を高めたい
・人間関係を改善したい
・取得したい資格がある
・いつかは副業や起業をしてみたい
そんな悩みを抱えながら、著者は自分には合わないと思うサラリーマン生活を15年間続けていました。結婚をして子供も2人できたので、なかなか会社を辞めるという決断ができなかったからです。
そんな時、著者は1冊のノートを持って、本書にも紹介されている「一人合宿」をしました。その結果、会社を辞めて起業し、ほとんどストレスのない働き方に移行することができました。収入も増え、家族仲も円満だそうです。
そんな話を聞くと、「そんなうまい話があるものか。単に著者の運が良かっただけではないのか」と眉につばをつける人もいるでしょうが、著者は「ノートと一人合宿のおかげ」と断言しています。
そして著者はこう言います。「気合いや努力は必要ありません。本書とノート1冊、それに30分を用意してください。他には何もいりません。それだけで、あなたの人生が劇的に変わります」
それでは目次を紹介しましょう。
・はじめに ノート1冊、30分の投資から人生は変わる!
・序章 手書きのノートで人生が変わる
1 自由な生活は、全てノートから生まれた
2 レオナルド・ダ・ヴィンチにエジソン、天才たちもノートに書きまくっていた!
3 成功者はノートを使っている
・第1章 ノートに書くことの効果
1 頭の中身を全部書き出し、「スペース」を作る
2 心のもやもやがスッキリ。悩みが消えてなくなる
3 企画力が上がり、アイデアがどんどん出る
4 スケジュール、ToDoの整理もらくらく
5 自己分析も劇的に進む
6 自分のやりたいことがわかる。気力が湧いてくる!
・第2章 一人合宿のやり方
1 一人合宿とは
2 事前準備は必要? 一人合宿の進め方
3 まずは30分、ノートを持ってカフェに行く
4 頭の中にあることを、とにかくノートに書く!
5 計画的な一人合宿、3時間、2日、4日のスケジュール例
6 これで良いのかな? と迷っても大丈夫
・第3章 ノートの使い方基本編
1 「考える」ためのノート術
2 ノートは手書き、お勧めのノートはこれ
3 インデックスはいらない。日付と時間、タイトルだけ
4 適当でも良いからタイトルを決める
5 頭の中を箇条書きで洗い出す
6 頭を限界まで空っぽにする方法
7 ノートは汚くても良い
8 一人合宿のノート実例
9 「書きたいことが見つからない、出てこない」ときはどうするか
10 ノートに書き出すときに意識すること
・第4章 ノートの使い方テクニック編
1 シンプルが一番。テクニックはあなたに合ったものを
2 マインドマップで頭の中を見える化する
3 バレットジャーナルでToDoを支配する
4 ポモドーロ・テクニックで時間を有効に
5 スケジュールは、フセンやスマホ、ノートをリンクさせる
6 フレームワークを使いこなす
・第5章 実験とベイビーステップ
1 実験思考を大切にしよう
2 ノートでPDCAを回す
3 コミュニティやコーチの力を借りる
4 長期的には、習慣化が大切
5 ベイビーステップ。まずはノートとペンを買う
6 ノートを持って、カフェに行こう!
・おわりに さあ、人生を変えよう!
序章では、ノートを書き始める前の著者の状態が描写されています。
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私は7年前まで、次のような普通のサラリーマンでした。
毎日、満員電車に揺られ、分刻みのスケジュールに追われて常に結果を求められる。上司や同僚、顧客との人間関係に悩まされ、ランチや飲み会ではグチや噂話ばかり。
とにかく日々の仕事を切り抜けるので精一杯。自分では努力しているつもりでも、何のためにそれをやっているのか、もはやよくわからなくなっていました。
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今の著者はそのころの自分を「頭にカスミがかかった状態」と呼んでいます。そんな状態では斬新なアイデアなど生まれるはずがありません。「これではいけない」という思いだけがあっても、何をしたら良いのかわからなければ、いつまで経っても同じ状態のままです。
そこで著者が頭のカスミを取り払うために選んだ手段がノートでした。忙しい人は心に余裕がないので「考える時間が足りない」という結論に陥りがちですが、それは違います。切れない斧で木を切ろうとしているので、いくら時間があってもムダ。必要な行動は、まず斧を研ぎ、一気に木を切り倒すことです。
この「斧を研ぐ」のに相当するのが、頭を整理して考え抜くことです。木を切り倒すのは問題を解決することに当たります。
著者はあるとき、たまたま会社の研修所に宿泊することがありました。そこで時間が余り、仕方なくペンを持ってノートに向かったのです。これが最初の「一人合宿」でした。
すると、ノートに頭に浮かんだことを片端から書き出すことで、頭の中が整理できました。そして「一度しかない人生なのだから、やりたいことをやって生きよう」というビジョンにたどり着き、会社を辞めるという決断ができました。
それ以来、著者は時間を作っては「一人合宿」を繰り返すようになります。著者は意志が弱く怠惰な人間だと自覚していますが、ノートを使うと常に行動し、結果を出し続けることができるようになりました。今では「ノートを使ってじっくり考えれば、必ず新しい発想が出る」と確信しているそうです。
もちろん、ノートの効用は起業を考えている人だけのものではありません。著者は「会社で評価されたい」とか「プライベートをうまくやりたい」という願望のある会社員にもノートの力は絶大だと言っています。
実際に、著者は会社を辞めるまでの数年間、ノートの効果をサラリーマンとして試しています。
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自分が上司になったつもりでノートを使って部門の課題を考えたり、論点をノートに整理することで商談や社内のコミュニケーションがスムーズになったり、ノートを使ったことで私の評価も変わりました。
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第1章からは、具体的なノートの使い方の解説が始まります。まず、なぜノートを使うと頭の中が整理できるかですが、著者は次のように言っています。
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例えば、あなたが仕事でミスをして上司に叱られた場合を想像してください。
「なんであんなミスをしてしまったのかな……」
「上司に叱られてイヤだな、あんな言い方をしなくても良いのに」
「同じミスを繰り返さないようにしないとな……」
「それにしても、なんであんなミスを……」
このようにせいぜい2つか3つのワードがぐるぐると頭の中を回っているのではないでしょうか。(中略)頭の中だけでは複雑なことを考えることができないということは、同意していただけるのではないでしょうか。
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ぼんやりととりとめのないことを考えているときの脳の活動を、脳科学の研究では、DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)と呼ぶそうです。いくつかのワードが頭の中でぐるぐる回っている状態は「考えている」のではなく「悩んでいる」だけです。この状態の中身をノートに書き出すことで、頭の中にスペースが生まれ、脳が有効活用できるようになるということです。
例えば、先の例をノートに書き出せば、こんな整理ができます。
「なんであんなミスをしてしまったのか」
↓
ミスをしてしまった原因
・記憶に頼った手作業なので、ミスをしやすい
・時間がなくて、焦っていた
・昨夜晩酌をして、寝不足だった
「上司に叱られてイヤだ。あんな言い方をしなくても」
↓
なぜ自分は嫌な気持ちになったのか
・ミスだけでなく、人格を否定された気がした
・確かにいつもミスをしているので、ドキッとした
・上司の言い方が、いつもイラッとする
↓
なぜ上司はあんな言い方をしたのか
・私のことが嫌いなのか
・家庭内など、他にストレスがあるのか
・あの人はいつも、誰に対してもあんな言い方だな
「同じミスを繰り返さないようにしないと」
↓
どうすれば同じミスを防げるか
・マニュアルとチェックリストを作る
・作業をしたあと、誰かにチェックしてもらう
・寝不足にならないよう、早く寝る
このようにノートに書き出すことで、思考が広く深くなります。頭の中だけでくよくよ悩んでいるうちは何も変わりませんが、こうして書き出すと具体的な解決策が見えてくるというわけです。
ところで、著者の方法に使用するノートやペンは、なんでもいいそうです。ただし、パソコンやスマホよりはアナログのノートのほうが断然有効だと著者は力説しています。デジタルよりもアナログのほうが脳に与える刺激が深くなりますし、パソコンやスマホは気が散る要素が多すぎるからです。
この方法はノートに記憶を蓄積してあとで役立てるというものではありません。あくまでも「今の思考」をアウトプットすることで、脳内を整理するのが主目的であり、あとで見直す必要すらないと著者は言います。人に見せる必要もありません。
ノートに書き出していくことで、自分自身の中から気づきが生まれ、それが予想もしなかったアイデアに発展していく。そのことが自分に自信をつけ、やる気を生み、重要な決断ができるようになれるということです。
まずはやってみようかなという気にさせてくれる1冊です。